Windows 8よ、どこへ行く

先日、MicrosoftSteve Ballmer CEOが来日して、今年後半にリリース予定のWindows 8を精力的にアピールしていったそうである。最近iPhoneiPadなどのApple製品やAndroidスマートフォンが最前線になりつつあるITシーンにあって、まがりなりにもPCの世界ではトップシェアを誇る王者の威信をかけたプロジェクトなのだろう。

同OSについては、従来のデスクトップに変わって新しくタッチパネルに最適化されたMetroと呼ばれるインターフェイスを引っさげて、これまでとまったく異なる使用感でWindowsを再創造するという。
僕は変化に対しては常に好意的でありたいと常々思っていて、単に使い慣れているからという理由で古いものにこだわって新しいものを食わず嫌いするような保守的なユーザにはなるまい、と思い一般公開された開発途上版であるConsumer Previewをインストールして色々と触ってみたのだけれど、これは何と言ったらよいのだろう……、新しいものが良い悪い云々以前に、いったいこれはどういう層をターゲットに据えたOSなのか、どういう使われ方を想定して作られたものなのかよくわからない、というのが正直な第一印象だ。
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Windows 8のスタート画面。従来のスタートメニューに相当
まずMicrosoftの名誉のために言っておくと、Windows 8は技術的にはとても完成度が高いOSである。
現状安定していて動作の軽いWindows 7をさらにチューンナップして軽快にし、デスクトップ周りに関しては細かな使い勝手がさらに向上している。
特に舌を巻くのは起動の速さ。例えばiMacParallels Desktop上にインストールしたWindows 7の起動が約37秒であるのに対し、同じ環境にインストールしたWindows 8は約11秒、実に1/3以下のスピードだ。
またエクスプローラにOfficeのようなリボンインターフェイスを導入してビギナーでも色々な機能を発見しやすくなったり、タスクマネージャーなどのアクセサリー類も地味にアップデートされていて使い勝手が向上している。
また、WindowsそのもののログインにもMicrosoft Account(従来のWindows Live ID)を使えるようになり、特に何も設定をしなくてもメールや連絡先、カレンダー、お気に入りなどのコンテンツやPC設定が他のWindows 8マシンやWindows Phoneと同期できるようになるなど、昨今のクラウド活用のトレンドもしっかりとキャッチアップしている。
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Windows 8のデスクトップ
が、ここで問題になってくるのが新しく導入されたMetroというタッチベースのUIで、これはWindows Phoneなどでも既に採用されているものだけれど、これが従来のデスクトップとうまく調和していない気がしてならない。
これまでのデスクトップインターフェイスは基本的にキーボードとマウスで操作するもので、それに対してMetro UIは比較的大きな文字や目立つアイコンから察せられるようにタッチスクリーンに最適化されている。
これはPCだけでなくタブレットのようなデバイスも視野に入れてのことだろう。
しかしデスクトップとMetroという、使われ方も想定されるデバイスも異なるインターフェイスを同列に組み込むというのは、いささか無理があるのではないだろうか。
これが仮にタブレットではMetroのみ、従来型のPCならデスクトップのみで完結できる仕組みになっていればよいのだけれど、残念ながらそうはなっていない。
まず、Windows 8のデスクトップにはスタートメニューがない。これまでスタートメニューからアクセスできる機能は、冒頭のスクリーンショットのような「スタート画面」と、それから「チャーム」と呼ばれるアイコンメニューに分けて配置されている。
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右側に表示されているのが「チャーム」
「スタート画面」に戻るにはマウスポインターを画面の左下端に持って行ってクリックするか、キーボードの[Windows]キーを押す。一方「チャーム」を表示するには、マウスポインターを画面の右上か左上端に持って行ってクリックするか、キーボードの[Windows] + [C]キーを押す。
覚えてしまえばどうってことのない操作ではあるけれど、いずれの操作もボタンなどの形で画面に表示されていないため、昔のファミコンゲームの裏技並みに「知っていないとわからない」世界である。
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プログラム一覧を呼び出したところ
ちなみにインストールされているプログラムは、先のチャームで「検索」をクリックすると上図のようにずらりと一覧が表示される。ここは従来のスタートメニューのプログラム一覧よ
り使いやすいと思うが、いずれにしてもスタート画面にせよチャームにせよ、そのインターフェイスはMetroの考え方に基づくもので、デスクトップですべてをワンストップで完結させることができない。
それじゃあタブレット的な使い方であればまったくデスクトップのお世話にならずに済むかといえば、そうは問屋が下ろさない。(笑)
システムの各種設定変更などは、スタート画面でチャームを開いて「設定」を選び、「PCの詳細設定」を選べば、Metroベースの設定Appが開いて、画面の背景色やユーザアカウントの管理など、色々な設定ができるようになっているけれど、ここですべての設定ができるわけではなく、画面の解像度変更やネットワークのセットアップ、ソフトウェア更新のレポート表示など込み入ったことをするには従来通りデスクトップに降りてコントロールパネルを開く必要がある。
それに従来型のPCでのMetroインターフェイスが使いやすいとはどうしても思えないのは、やはりインターフェイスの要素がタッチパネルに最適化されていて、PCでの操作性が犠牲になっているからだろう。
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標準のMail App
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Metro版 Internet Explorer 10
Metroにはウィンドウという考え方がないので、どのAppでもこのように画面いっぱいに表示される。
文字が大きいのは視力の弱い僕にとってはありがたいところけれど、たとえばWebの記事を見ながら文書を書いたり、アプリケーション間で項目をドラッグアンドドロップすることはできない。
特に救いようがないのがブラウザで、PCでは画面をiPadのように縦横回転させることもできないので上図のように左右に巨大なスペースが生じてかっこ悪いものになってしまう。
要するにMetroは完全にタブレットなどの「コンテンツを消費することがメインのデバイス」向けのインターフェイスで、PCの本分であるところの「プロの道具としてクリエイティブに何かを創造する」ことに関してはほとんど注意が払われていない。
そのような向きには従来からのデスクトップを使え、ということなのだろうけれど、そのデスクトップも位置づけとしては「Metro内の1アプリケーション」のようなイメージで、Metroそのものを避けて通ることはできない。ちょうど従来のウィンドウズのデスクトップ環境と「コマンドプロンプト」の関係と同じだ。
Metroそのものはデザインも都会的でAppストアも備え、タブレットで使うならとても楽しい体験が得られるだろうけれど、PC画面がタッチパネルになれば使いやすいかと問われれば、それはまた別の問題だろう。
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Appを購入、ダウンロードできるWindows Store
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デザインの美しいファイナンス App
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iPhoneなどでも人気のゲーム”Cut the Rope”
事実、Appleの故Steve Jobs氏は2010年秋に、新機能としてマルチタッチジェスチャーを導入したMac OS X Lionをお披露目した際、「PC画面そのものをタッチパネルにするアイディアはユーザーテストの結果、人間工学的に酷いことがわかった。タッチパネルは(iPadやiPhoneのように)水平でなければ腕が疲れてしまいすぐに下ろしたくなる」と評して、代わりにこれまで通りのトラックパッドやマウスにタッチセンサーを組み合わせて使う道を選んだ。
今年の夏にはMac OS Xの次期バージョンとなる、”Mountain Lion“がリリースされることが早くもアナウンスされているが、AppleのプラットフォームではMacはあくまでMacであり、一方iPhoneとiPadではタッチパネルで操作するモバイルデバイスという共通項からiOSという、Mac OS Xの親戚ではあるもののルック&フィールの異なるOSを別途採用している。
一方Windowsでは、使われ方の異なるPCとタブレットで同じOSを採用して、また同じタッチパネルやMetroインターフェイスを使っていながら、スマートフォンである”Windows Phone”のOSは、Windows 8との互換性はない。せめてiPadでiPhone Appが動作するように、Windows 8でもWindows PhoneのAppが動いて欲しいとは思うけれど、その辺りが実現するかどうかは、噂としては聞かれるもののまだはっきりとしたアナウンスは出されていない。
いずれにしても、個人的にWindowsとMicrosoftの行く末が心配だ。
確かに昨今はスマートフォンやタブレットが全盛で、例えばWebブラウジングやメール、写真や音楽、ゲームなど、コンシューマーがPCに求める機能をだいたいあまねくカバーできるように
なってきた。
むしろこれまでは、iPadのようなデバイスがなかったために、そういった受動的な使い方しかしない層も仕方なくPCをあてがわれていたケースがほとんどだったと思う。
とはいえ、これからのPCがすべてタブレットに取って代わるのかと問われれば、それはいささか乱暴な考えじゃないのか、と首を傾げてしまう。
PCというのは元来、何かをクリエイトする能動的な道具だったはずだ。それはワープロ文書であったりプレゼンテーションであったり、あるいはグラフィックやWebデザイン、プログラム開発、そして僕のように音楽制作の道具として日々使っている人もいるだろう。
このような用途ではまだまだタブレットではダメだ。多くのアプリケーションやファイルを縦横無尽に操ることもできなければ、キーボードを使って素早く文書を入力することもできない。タッチパネルは直感的で便利だけれど、マウスやトラックパッドのような正確なポインティングには向かない。
だからこれからはPCがタブレット化するのではなく、むしろこれまで以上にPCはPC然としていなければならないと思う。
今のWindows 8のままでは、「タブレットとしては難解で、PCとしては使いづらい」虻蜂取らず状態にしかならない。是非ここでMicrosoftは製品化を思いとどまって、今一度PCというものの本質を見つめ直して欲しいと思う。
そうでなければ、Windows PCを仕事で使うプロフェッショナルなユーザたちの間でMacプラットフォームへの大移動が起きてしまうかもしれない……。(笑)

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